「記録に時間がかかりすぎる」
「申し送りがうまく伝わらない」
「新人がなかなか育たない」——
訪問看護ステーションの管理者や教育担当者の多くが、こうした悩みを抱えています。
現場経験が豊富で、利用者や家族へのケアには自信がある。それなのに、記録管理や情報共有、教育体制といった”仕組みづくり”になると、どこから手をつければいいのか分からず立ち止まってしまう。そんな方も少なくありません。
この記事では、訪問看護ステーションで成果を出すための「仕組みづくり」の本質と、現場ですぐに活かせる7つの考え方をご紹介します。
完璧を目指さなくても大丈夫。小さな一歩から始められる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
仕組みづくりとは何か?その本質を理解する
訪問看護の現場で「仕組みづくり」と聞くと、マニュアルを整備することや、新しいシステムを導入することをイメージする方が多いかもしれません。もちろん、それらも仕組みの一部ではあります。
しかし、仕組みづくりの本質は、もっとシンプルです。
仕組みとは、現場で働く人の判断と行動を、できるだけラクにするための設計のことです。
具体的には、次のような状態を目指すものです。
- 誰が対応しても迷わず判断できる
- 同じ質で仕事が進む
- 確認や修正のやりとりが最小限で済む
反対に、「一生懸命やっているのに、なぜか現場が回らない」「特定の人がいないと成り立たない」という状況は、仕組みが人の努力や経験値に依存している状態と言えます。
頑張りや責任感の強さで何とか成り立っている現場ほど、一人欠けただけで混乱が起きやすく、新人や異動者が育ちにくい構造になりがちです。
もし今、「忙しいのに成果につながらない」「改善しようとしても、結局元に戻ってしまう」と感じているなら、それは個人の問題ではなく、仕組みの問題かもしれません。
ここからは、訪問看護ステーションで成果を出すための仕組みづくりに必要な7つの考え方を、順番に見ていきましょう。
考え方① 目的は「現場が楽になること」
仕組みづくりの目的は、管理しやすくすることでも、評価しやすくすることでもありません。
一番の目的は、現場が少し楽になることです。
ここでいう「楽になる」とは、サボれるようになるという意味ではありません。次のような、日々の小さなストレスが減っていく状態のことを指します。
- 確認のやりとりが減る
- 「これで合っているかな?」と迷う時間が減る
- 特定の誰かに負担が集中しない
- 同じことを何度も説明しなくて済む
訪問看護の現場には、もともと責任感が強く、まじめな人が多くいます。だからこそ、「自分が頑張れば何とかなる」「周りに迷惑をかけたくない」と無理を重ねてしまいがちです。
しかし、仕組みが整っていない状態で頑張り続けるのは、個人の限界に頼った運営になってしまいます。これでは、いつか誰かが疲弊し、離職や休職につながるリスクも高まります。
仕組みづくりは、誰かを管理するためのものではなく、頑張らなくても回る状態をつくるためのものです。
「少し楽になった」——
その積み重ねが、結果的に現場の安定や質の向上につながっていきます。管理者や教育担当者の役割は、現場の負担を減らすための環境を整えることです。
考え方② 最初は小さく改善する
いきなり完璧な仕組みを作ろうとすると、ほぼ確実に現場は止まります。
次のようなやり方は、かえって混乱や反発を生みやすくなります。
- 全部そろえようとする
- 全員に一斉に周知しようとする
- 一度で完成させようとする
仕組みづくりは、一気に変えるものではなく、育てていくものです。
たとえば、次のような小さな改善から始めてみましょう。
✓ 記録の「この1項目だけ」統一する
✓ 申し送りの「書き出し」だけ決める
✓ 確認が必要な情報を「この3つだけ」と絞る
「これくらいで意味があるのかな?」と思うかもしれませんが、小さな統一は、想像以上に効果があります。
なぜなら、一度うまく回った経験があると、「次もやってみよう」という空気が現場に生まれるからです。成功体験の積み重ねが、次の改善への意欲につながります。
最初の目的は、完成度を上げることではなく、止まらずに動き続けることです。
小さく始めて、現場の反応を見ながら少しずつ育てていく。
それが、長く続く仕組みづくりのコツです。焦らず、一歩ずつ進めていきましょう。
考え方③ データ・数字で効果を見える化する
仕組みづくりは、成果が見えないと続きません。
「良くなっている気はするけど…」という曖昧な状態だと、忙しさに押されて元に戻ってしまいます。だからこそ、効果を見える化することが大切です。
とはいえ、難しい分析や資料づくりは必要ありません。見るべきなのは、現場で体感できる変化です。
たとえば、次のような観点で振り返ってみましょう。
- 記録にかかる時間が短くなったか
- 確認や修正のやりとりが減ったか
- 新人からの質問が少し減ったか
- 「これどうすればいい?」という声が減ったか
- 特定のスタッフへの負担集中が緩和されたか
こうした変化は、厳密な数値でなくても構いません。
「前より10分早く終わるようになった」「同じ内容を何度も聞かれなくなった」——それだけでも、立派な成果です。
効果を言葉や数字で共有すると、現場には「この仕組み、意味があるよね」という納得感が生まれます。納得感があると、継続する意欲も高まります。
仕組みづくりを続けるために大切なのは、完璧な評価ではなく、変化に気づいてあげることです。
小さな改善を見える形にすることで、次の一歩が踏み出しやすくなります。スタッフ全員で成果を共有し、「やってよかった」と思える瞬間を増やしていきましょう。
考え方④ 教育は仕組みの一部である
新人教育がうまくいかない現場ほど、「教育」と「仕組み」を別のものとして考えがちです。
教育は教育担当が頑張るもの、仕組みは管理者が考えるもの——そんなふうに役割を分けてしまうことも少なくありません。
しかし実際には、教育が必要な状態そのものが、仕組みが未整理であるサインであることが多いのです。
たとえば、新人が次のような状態になっているとしたら、それは新人の理解力や努力の問題ではありません。
- 何を書けばいいのか分からない
- どこまで書けば十分なのか判断できない
- 教える人によって言うことが違う
- 同じことを何度も質問してしまう
これらは、判断基準や優先順位が仕組みとして共有されていないだけです。
教育をいくら手厚くしても、土台となる仕組みが曖昧なままでは、新人は毎回「人の顔色を見て」動くしかありません。これでは、自信を持って判断することができず、いつまでも不安を抱えたまま業務を続けることになります。
だからこそ、教育を考えるときは、「何をどう教えるか」だけでなく、「迷わなくて済む環境があるか」を一緒に見直す必要があります。
具体的には、次のような視点で整理してみましょう。
✓ 記録のルールや書き方が明確になっているか
✓ 判断基準がスタッフ間で共有されているか
✓ 新人が参照できるツールや資料があるか
✓ 質問しやすい雰囲気や相談体制があるか
教育を楽にするには、教え方を工夫するだけでなく、仕組みそのものを見直すことが不可欠です。仕組みが整えば、教育担当者の負担も大幅に減ります。
考え方⑤ ICTは「魔法の道具」ではない
電子記録システム、チャットツール、情報共有アプリ——訪問看護の現場でも、便利なICT(情報通信技術)ツールが数多く登場しています。
「これを入れれば楽になるはず」と期待して導入した経験がある方も多いかもしれません。
しかし実際には、ルールが決まらないままICTを導入すると、かえって混乱が増えるという現場も少なくありません。
たとえば、次のような状況に陥っていませんか?
- 何をどこに書けばいいのか分からない
- 結局、口頭や電話で確認している
- 情報があちこちに散らばっている
- 同じ内容を複数の場所に入力している
- ツールを使いこなせる人とそうでない人の差が大きい
こうなると、ツールは便利どころか、確認作業を増やす原因になってしまいます。せっかく導入したのに、使われなくなってしまうケースも珍しくありません。
ICTが本来の力を発揮するのは、次のような基本のルールが決まっている場合です。
✓ 何を記録するのか
✓ どこに記録するのか
✓ 誰が確認するのか
✓ いつまでに対応するのか
だからこそ、ICTは「仕組みの代わり」ではなく、仕組みを補助するものという位置づけが大切になります。
先に考えるべきなのはツールではなく、現場の動き方そのものです。業務の流れや情報共有のルールが整ってはじめて、ICTは本当に役に立つ存在になります。
もし今、ICTツールの導入を検討しているなら、まずは「現場でどんな困りごとがあるのか」「どんな流れで情報が動いているのか」を整理することから始めましょう。
考え方⑥ 失敗を許容する仕組みをつくる
仕組みづくりは、一度でうまくいくものではありません。
むしろ、最初から完璧に回ることのほうが少ないのが現実です。だからこそ必要なのが、「うまくいかなかったら直せばいい」という空気です。
導入した仕組みが、次のような結果になることもあるでしょう。
- 使われなかった
- 分かりにくかった
- 思ったより負担が増えた
- 現場に合わなかった
しかし、こうした結果は失敗ではありません。「どこが合っていなかったのか」を教えてくれる、大切な改善のヒントです。
失敗を責める雰囲気があると、現場は新しいことに挑戦しなくなります。結果として、仕組みづくりそのものが止まってしまいます。
一方で、「試してみて、合わなければ変えよう」という視点がある現場では、小さな修正が積み重なり、仕組みが自然と育っていきます。
具体的には、次のような姿勢を大切にしましょう。
✓ 「やってみてどうだった?」と率直に聞く
✓ 「ここは変えたほうがいいね」と柔軟に対応する
✓ 「試してくれてありがとう」と前向きに受け止める
✓ 「次はこうしてみよう」と改善を続ける
仕組みを成功させる鍵は、正しさよりも柔軟さです。完璧を求めすぎず、現場の声を聞きながら少しずつ調整していく。その積み重ねが、長く使われる仕組みにつながります。
失敗を恐れず、小さく試して改善を繰り返す。そんな文化を現場に根づかせることが、仕組みづくりの成功につながります。
考え方⑦ 多職種・関係者を巻き込む
訪問看護の仕組みは、看護師だけで完結するものではありません。
日々のケアは、医師、ケアマネジャー、リハビリ職、そして利用者・家族との連携の上に成り立っています。そのため、情報共有の質は、どんな仕組みを使っているかに大きく左右されます。
次のような視点で、現場を見直してみましょう。
- 伝えたいことが、きちんと伝わっているか
- 必要な情報が、必要なタイミングで届いているか
- 誰が見ても状況を把握できるか
- 専門用語ばかりで分かりにくくなっていないか
- 関係者が迷わず連絡できる体制になっているか
こうした点が整っていないと、小さな行き違いが重なり、現場の負担はどんどん増えていきます。確認の電話が増えたり、情報の伝達ミスが起きたりすることもあるでしょう。
仕組みづくりを考えるときは、ぜひ「これは誰のための仕組みだろう?」と立ち止まってみてください。
看護師のためだけではなく、多職種や家族にとっても分かりやすいか。そう意識するだけで、現場の視野は一段広がります。
たとえば、次のような工夫が考えられます。
✓ 記録のフォーマットを他職種でも理解しやすい形にする
✓ 共有すべき情報と、内部だけの情報を区別する
✓ 家族向けの連絡方法を明確にする
✓ ケアマネジャーとの連絡ルールを統一する
結果として、無駄な確認や誤解が減り、チーム全体が同じ方向を向いて動きやすくなります。多職種連携がスムーズになれば、利用者にとってもより質の高いケアを提供できるようになります。
訪問看護の仕組みづくりは、現場の中だけで完結するものではありません。関係者全体を視野に入れた設計が、成果につながります。
まとめ|まずは”ここ”から始めてみてください
仕組みづくりは、大きな改革から始める必要はありません。
むしろ、最初から完璧を目指そうとすると、手が止まってしまいがちです。大切なのは、できるところから、無理のない形で始めることです。
まずは、次のような小さな一歩から始めてみましょう。
- 1つの項目を決める
- 1つの流れを整理する
- 1つのルールを統一する
たとえば、「訪問記録の目的を書く場所を決める」「申し送りの書き出しを統一する」——そんな小さな一歩でも、現場の迷いは確実に減っていきます。
この一歩が、記録の統一につながり、新人教育を楽にし、ICTを活かす土台になります。そして何より、「頑張らなくても回る現場」をつくるための第一歩になります。
改めて、今回ご紹介した7つの考え方を振り返りましょう。
- 目的は「現場が楽になること」
——管理のためではなく、負担を減らすため - 最初は小さく改善する
——完璧を目指さず、動き続けることを優先 - データ・数字で効果を見える化する
——体感できる変化を共有する - 教育は仕組みの一部である
——教え方だけでなく、環境を整える - ICTは「魔法の道具」ではない
——仕組みが先、ツールは後 - 失敗を許容する仕組みをつくる
——柔軟に改善を続ける文化を育てる - 多職種・関係者を巻き込む
——看護師だけでなく、チーム全体を視野に入れる
仕組みづくりは、誰かを縛るためのものではありません。現場で働くすべての人が、少しでも楽に、安心して仕事ができるようにするためのものです。
忙しい毎日の中で、一気に変えることは難しいかもしれません。でも、小さな一歩を踏み出すことはできます。
今日から、できることを一つだけ始めてみませんか?
その一歩が、やがて現場全体を変える大きな力になります。


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